このブログにも、たびたびコメントを寄せていただいている笠井一成氏の処女作、「形見のハマチ」の読後感です。
氏の経歴や作品の概要は、Amazonのページを見ていただくとして、氏と管理人は小学校時代の同級生で、また同じ大学へ通った仲です。そこの所を割り引いて(笑)読んでいただけるといいかもしれません。 * |
盆休みに、笠井 一成氏の「形見のハマチ」を読みました。
表題作以下、短編・中編あわせて9つの作品が収められています。 ・形見のハマチ ・不幸の天使 ・代用標本 ・犬死 ・慈愛なる悪意 ・植物園の怪人 ・言いわけの命 ・謝罪 ・希望
とにかく、これは、すごい本です。過激とか超現実とか無審査とか非定形とか、言い古された形容詞では表せない文章が続きます。
最初読み始めた時、「いったい、これは何だ?」と、口走ってしまいました。もしこれが友人から貰った本じゃなかったら、「悪いけど、とても読み続けられない。」と、本を閉じてしまったでしょう。
実際、1日に1作、中編だと半分しか読めなくて、1冊了読するのに、半月以上かかりました。
人権、過激派、恋愛、生死観、世相、毒舌、セックス、回想・・・・ いろんなテーマが、いろんなそれも今まで接してこなかった(正しくは避けてきた)表現方法で迫ってきます。
作品に出てくるエピソードも、友人あるいは地元民なら「あぁ~、そんなこともあったなぁ。」と思い出すシーンもたくさんあり、普通は、特定の地名や人名が出てきても気にせずに「この作品はフィクションであり、実在するいかなる団体や個人とも関係はありません。」と無視するところですが、ミョーに生々しくて、「こんなこと書いてええんかいな?」と呟いてしまいます。
読んでて目眩がしてきたり、決して、さわやかではない読後感に悩まされて、次の作品に進めなかったりしながらも、がまんして(失礼)2作、3作と読み続けるうちに、作者の思い(思想・信条・人生・現実・欲望・不満etc.・・・・・)がおぼろげながら分かってきました。
なかなか言葉では書き表せないけど、「この人はこれを訴えたいんだ。」ということは良く理解できます。書かれたのは、今から20年ほども前ですから、作者は30歳前後の青年文学者。いくらでも言いたいことが言えた(書けた)ある意味で、楽しい時代だったんでしょうね。
本当は、「希望」と題された作品の主人公の経歴が何度もプリズムで捻じ曲げられて、フィルターで薄められながらも作者の履歴書を反映しているのだとすれば、「オレには輝かしい未来が約束されているんだ!」と叫びながらも、浮き草のような食うための仕事に甘んじていたのかもしれませんが。
翻って、この作品が書かれた頃の自分の人生を振り返ってみると、某会社に事務員として雇われ、家と会社を往復し、帰りには、同僚と飲みに行き、たまの休みには趣味を楽しみ、何の不自由も感じずノウノウと暮らしていました。
そんな安サラリーマンには、こんな作品が書けるわけがありませんから、やはり筆者には才能とそれを開花させる努力があったのでしょう。
読み終わってすぐは、あまりの壮絶さに頭の中がまとまらないかも知れません。一週間か十日ほどして、もう一度ページを繰りながら読み返すと、より理解がしやすいでしょう。もちろん感受性の鋭い読者なら、一読で理解されるとは思いますが。
あえて難解に書かれているだけで、実は「何にも考えてないから悩むだけ無駄だよ。」と、作者は頭を抱える読者を見てせせら笑う。という、ものすごい『悪意』が隠されているのもしれませんが(笑) * |
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残念ながら、すでに新書では手にはいらないようで、古書店でさがしていただくか図書館で見つけていただかないと読めないかもしれません。でも、ある過ぎ去った時代をもう一度検証し直すきっかけになる一冊だといえましょう。
友人の私がいうのは変ですが、一度手にとって読んで見られることをお勧めします。 * |
 お帰りは、このバナーから「本館」へどうぞ。 |
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なかっちょさん
お元気そうで、よかったです!
笠井さんのご本、読んでみたいようで、難しそうで・・・。
図書館で見つかったら、読んでみます。
投稿: ナンシーおばさん | 2011.08.20 17:57
>> ナンシーさんへ
こんにちは。今日は涼しくてしのぎやすいですね。
東京見物はいかがでしたか?
さて、笠井君の本ですが、いわゆる「戦争を知らない子供たちぃさぁ~。」と、
歌われた世代なら、共感できるところが多々あると思います。残念ながら京都府下
の図書館には蔵書は無いみたいです。調べてもらいましたら、国会図書館には
あるそうです(笑)←当たり前か
投稿: なかっちょ | 2011.08.20 19:10